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第十一話 二回目のイロナ・迷う

مؤلف: 紡里
last update تاريخ النشر: 2026-08-01 15:14:17

わたくしは毒殺され、一月前へ戻って来た。

以前は気がつかなかった婚約者と親友の不貞に気づき、飲み物を口にすることさえ怖くなってしまった。

時を巻き戻したという魔術師からは、マールトンを許すのか、それとも復讐するのか、自分で決めるようにと言われている。

どうすればいいのだろう。

悔しさは消えない。けれど、復讐など神がお許しにならない。

そう思うのに、清らかな心は戻ってこない。胸に渦巻く靄も、晴れる気配がなかった。

   ***

今日は学園へ登校した。

マールトンはわたくしとは口も効かないくせに、課題のノートだけはわたくしの机へ放り投げてくる。カタリンも「あら、ついでに私のも~」と笑いながら、自分のノートを差し出した。

今までのわたくしは、断り切れず三人分の課題を黙ってこなしていた。教師も筆跡が同じだと気付いているはずなのに、何も言わず黙認している。

わたくしが課題に追われている間、二人は先に帰って逢瀬を重ねていたのだ。

なんて馬鹿らしい。

わたくしは二人のノートに触れることすら嫌になり、そのまま机の上へ置き去りにして、教室を後にした。

   ***

そんなことよりも、今は考えなければいけないことがある。

このままでは、わたくしは前回と同じようにカタリンに毒殺されてしまう。

毒殺を回避することだけは、絶対に譲れない。

そのために、あの魔術師に協力してもらえないか頼んでみよう。

問題は、その先だった。

婚約を解消し、二人と縁を切るだけでいいのか。

「浅はかなことを考えるのはやめて」とカタリンに直接言う?

「浮気をやめて」とマールトンに訴える?

復讐なんて、そんな恐ろしいこと……神がお許しになるはずがない。

けれど、裏切りには相応の報いを受けてもらい、··すべきではないか?

わたくしが味わった苦しみの、十分の一でもいいから……。

心は揺れ動き、夜になっても答えは出なかった。

   ***

翌日、マールトンとカタリンは課題をやっていないことに気付くと、わたくしを責め立てた。

同級生たちは、あまりにも身勝手な二人の言い分に、白い目を向けている。

「あなたたち、自分で課題をやっていないと大声で言っていることに気付いている?」

わたくしは静かに言い返した。

心臓がばくばくしている。机の下の手も震えている。

そこへ教師が教室へ入ってきた。

二人は課題をやってこなかったことを叱られ、その後は一日中、わたくしを無視していた。

以前のわたくしなら、不安になってこちらから謝っていただろう。

けれど今は、無視される方がずっと平和だ。

縁を切って困るのは、あちらの方なのだから。

そう思うと、胸のつかえが少しだけ晴れた気がした。

   ***

帰宅して、紅茶を淹れるぬいぐるみの魔導具を動かした。

ガーボルが置いていった、お試し用の魔導具だ。次に来る時までに、購入するかどうか決めておかなければならない。

決めなければならないことが多すぎて、思わずため息が漏れる。

そのとき、魔導具の動きがおかしくなった。淹れられた紅茶は渋く、とても飲めたものではない。

慌てて魔術師ガーボルに連絡を入れると、「明日の夕方に伺います」と返事が来た。

まだ、マールトンたちをどうするのか答えは出ていない。

けれど、魔導具が壊れてしまったのだから仕方がない。

明日、ガーボルともう一度話をすることになるだろう。

   ***

翌日、学園から帰宅し、約束の時間になるのを待っていると、使用人に案内されて見知らぬ男が現れた。

「誰?」

「え、ガーボル・ヴェレシュですけど」

一瞬、言葉を失う。

使用人が案内してきたのだから、本人確認は済んでいるはずだ。

「まるで別人みたいよ……」

「あ。前回はひどすぎたなって反省して、髪を切ってきました。せっかくだから、今、若い子に人気がある役者みたいな髪型にしてもらったんです。どうですか?」

「どう、とは?」

陰気な魔術師らしい風貌は消え、爽やかな青年になっている。あまりの変わりように、頭が追いつかなかった。

「ラズロって役者、お好きですか?」

「えっと……まあ。はい」

カタリンとマールトンに苛立ちながら観た舞台で、主役を務めていた役者だ。確かに格好いい人だった。

「床屋で、ラズロみたいにしてもらいました」

そう言われても、似てるかと聞かれれば微妙だ。

わたくしが返事に困っていると、ガーボルは小さく笑った。

「――えっと。修理しながらお話ししましょうか」

ガーボルは、早々に本題を切り出した。

「ごめんなさい。まだ、どうしたいか決められないんです。判断材料が少なくて……」

わたくしは正直に答えた。

「セーケイ子爵令嬢は、何が知りたいですか?」

「わたくしの死後、何があったか知りたいです」

「なるほど。言われてみれば、それが一番気になりますよね。ざっくり言いますと――」

カタリンは学園を中退して、マールトンと結婚したそうだ。

そして、わたくしは嫉妬の末に当てつけで自殺したことになっていた。

……不名誉すぎて、腹が立つ。

その後、マールトンのヘーデルヴァーリ家は没落の一途をたどり、カタリンが産んだ子どもは、本当にマールトンの子なのかという疑惑まで持ち上がった。

その頃になってようやく、マールトンは「イロナと結婚していれば、こんな不幸にはならなかった」と考え、時を巻き戻そうと考えるようになったのだという。

「――え? それでは、ただの現実逃避じゃない」

思わず脱力してしまった。

「うまくいけば、また、わたくしを利用できるって……それだけ?」

カタリンは、わたくしが邪魔だから殺した。

マールトンは、わたくしが必要になったから時を戻した。

なんて勝手な人たちなのだろう。

そのとき、リスのぬいぐるみが尻尾を振った。

「今度はうまく淹れられたかな?」

くるみがリスの周りを三周すると、リスは抱えているポットをゆっくり傾ける。

ティーカップを置くとボタンが押され、カップがないと注げないので安心だ。

ガーボルはさっと一口飲み、「これくらいなら大丈夫かな」と呟いた。

「試してみて」

そう言って、飲みかけのカップをそのまま差し出してくる。

「これを、わたくしが?」

「うん。……ん?」

同じカップで飲むということに戸惑っているのは、わたくしだけのようだ。

「あ、間接キス……ごめん。そういうつもりじゃない! 新しく淹れ直すよ」

ガーボルは残っていた紅茶を一気に飲み干した。

「あっちちち!」

何をしているのだ、この人は。

「水。水を持って来て!」

わたくしも慌てて声を上げると、侍女がすぐに水を運んできた。

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